診療部・中央部門等のご紹介
診療部・中央部門等のご紹介

成人先天性心疾患診療

     

診療概要 主な対象疾患 診療体制 主な診療業務 先進的な臨床研究

 心臓病のこども、先天性心疾患をもって生まれたお子さんが成人した後の状態を『成人先天性心疾患』と言います。先天性心疾患の手術治療が始まった歴史は約60年前、日本でも約50年前からですが、その後の医療技術の進歩により現在では先天性心疾患のお子さんのうち90%以上が成人を迎えられるようになりました。日本では現在50万人の成人先天性心疾患の患者さんがいるとされ、毎年1万人ずつ増えるとされています。
 先天性心疾患では小児期に手術などの治療を受けて元気になっても、その後の成長や加齢、就職や妊娠・出産などに伴い様々な形での心臓への負担がかかることもあり、成人を迎えた後も複雑な心臓の形や機能をしていることもまれではなく、専門病院での正確な評価や場合によっては再手術を必要とすることも少なからずあります。しかしながら先天性心疾患そのものの歴史はまだ浅く、成人期以降の診察や治療の方針を決めることは必ずしも容易ではなく、成人先天性心疾患の患者さんが十分な治療を受けられる医療機関は日本のみならず欧米などの先進諸国でもまだ十分な数はないという現実があります。
 当院では小児先天性心疾患と高齢者後天性心疾患との内科診療・外科診療の十分な実績を有する国内でもまれな大学病院であり、成人先天性心疾患の患者さんたちの窓口を設けました。高度な専門性を持つ複数の診療科をまたぐチームを形成し、最先端の技術を導入して個々の患者さんにとってベストな診療を提供させていただいています。

  • ファロー四徴症や両大血管右室起始症などの小児期の心内修復手術後のかた。
  • 心室中隔欠損症の治療後遺残短絡があると言われたかた。
  • 未治療の心房中隔欠損症、心室中隔欠損症、動脈管開存症、房室中隔欠損症、部分肺静脈還流異常症などがあると言われたかた。
  • ロス手術後のかた。
  • 完全大血管転位症手術後のかた。
  • 修正大血管転位症などの修復手術後や未修復・未治療のかた。
  • エプスタイン病の手術治療後または未治療のかた。
  • ウール病等の心筋の先天性的な疾患の成人期のかた。
  • フォンタン手術後成人期のかた。または段階的な修復手術を目指しその昔フォンタン手術の適応がないと判断されたかた。
  • フォンタン手術後成人期に起こりうる諸問題(心不全、蛋白漏出性胃腸症、肝機能障害、肺動静脈瘻、冠静脈高血圧)などにお困りのかた。
  • 左室流出路狭窄や閉塞を指摘された先天性心疾患手術後のかた。
  • 房室中隔欠損や先天性僧帽弁狭窄・閉鎖不全の手術後に心雑音があると言われたかた。
  • 大動脈弓縮窄症や大動脈弓離断症手術後や未手術のかた。
  • 小児期に川崎病を患い、冠動脈瘤や冠動脈狭窄があるとされたかた。
  • 未治療の冠動脈起始異常があると言われたかた。また小児期の修復後に狭心症状が残ったり指摘されたりしたかた。
  • 先天性心疾患にともなう肺高血圧を有する患者さん。
  • 先天性心疾患にともなうチアノーゼを有する患者さん。
  • 先天性心疾患の手術後、成人期に不整脈をきたした患者さん。
  • 先天性心疾患の手術後、成人期に心不全をきたした患者さん。
  • 先天性心疾患をもっていて妊娠をされたかた。
  • 先天性心疾患をもっていて肝臓機能不全や腎不全があるかた。
  • 小児期に先天性心疾患を指摘されたり手術を受けたりして、現在特に症状はなくても、健康に心配や不安を感じるかた。

 成人先天性心疾患は先天性心疾患でありながら成人期に入り生活習慣病が加わったり、加齢に伴う心機能の変化が伴ったり、心臓以外の臓器の問題を抱えたりと、幅広い専門家でチームを形成し、診療にあたる必要があります。そのため当院では小児科・小児循環器科・循環器内科・心臓血管外科・小児心臓血管外科を中心として成人先天性心疾患のハートチームを組み診療にあたっています。
 外来は小児科外来から循環器内科との連携し、また再手術を検討する必要がある場合には外科と連携し成人先天性心臓外科外来もあります。成人先天性心疾患は血行動態が複雑な患者さんが多く、超音波検査やMRI検査による血行動態評価、また不整脈の評価や肺高血圧の評価など必要に応じて様々な検査を組むことも可能です。
 外来診療に加え、我々の施設では成人先天性心疾患の診療に関わる全ての診療科が集まる成人先天性(ACHD: Adult Congenital Heart Disease)カンファレンスを定期的に行い、患者さん一人一人の治療方針を綿密に検討しています。必要があれば適切なタイミングで手術やカテーテル治療を計画したり、効果的な薬剤の治療を検討しています。

          
外来担当医
  月曜日 火曜日 水曜日 木曜日 金曜日
午前     板谷慶一 (外科) 中村 猛 (内科)
中西直彦 (内科)
梶山 葉
(小児科)
午後     山岸正明 (外科)
(月1回)
板谷慶一 (外科)
中村 猛 (内科)
中西直彦 (内科)
梶山 葉
(小児科)

検査担当医
検査名 担当医 検査曜日・時間帯
心臓超音波検査 山野倫代(内科) 水・木午後
心臓MRI 4D flow 中路康介(放射線科) 板谷慶一(外科) 水曜夕方
  • 成人先天性心疾患の血行動態への包括的なアセスメント
    ➡心機能、不整脈、肺高血圧、などを各方面の専門家が連携し詳細な検討を行います。
  • 成人先天性心疾患の心不全治療、不整脈治療、肺高血圧治療、再手術治療
    ➡最先端の技術を駆使し個々の患者さんに合わせたベストな治療を提供いたします。
  • 成人先天性心疾患患者さんの心臓以外の諸問題への診療
    ➡妊娠・出産、肝臓や腎臓の合併症などに対して各専門家が連携し対応いたします。
  • 成人後に新たに見つかった先天性心疾患の治療
    ➡小児期からの患者さんだけでなく、新たに見つかった先天性心疾患でも詳細に検討し、患者さんの生活に合わせたベストな治療を検討いたします。
  • 心房中隔欠損症や動脈管開存症のカテーテル治療
    ➡低侵襲なカテーテルでの手術も取り入れています。
  • 血行動態が複雑な患者さんの再手術治療
    ➡過去に複雑な手術を受けた患者さんであっても、最先端の技術を導入し詳細な検討を行い、患者さんの生活の質を高めるためのベストな再手術を検討いたします。
          

 先天性心疾患の治療の歴史はまだ短く、現代においてもまだわかっていないことは成人先天性心疾患にはたくさんあります。大学病院としては一例一例の患者さんの診療に全力であたるとともに可能な限り最新の先端技術を導入し、診療の質を向上させ、またその経験を世界に向けて発信していかなければならない宿命にあります。本学では成人先天性心疾患という難しい疾患に対して様々な先進的な臨床研究を試みています。
 こういった疾患では大学間や病院間の連携、経験の共有も重要であり、全国の多くの施設での成人先天性症例を具体的にどのような治療を行うべきかを多方面の専門家を募り議論し、情報共有するための研究会を本学が中心となって「右心系と成人先天性心疾患の血行動態に関する研究会 (HERVAC http://hervac.org/ )」を作り、積極的に多くの施設との情報交換を行い、交流を深めています。
 先天性心疾患は極めて複雑な解剖や特有な血行動態を呈しますが、そのために最新の画像診断である4D イメージングを駆使し、病態を正確に把握するような研究を行っています。本学心臓血管血流解析学講座で開発された造影剤を用いず、心臓血管の拍動を追跡できる4D flow MRIをいち早く導入し、複雑な症例での心機能や血行動態の評価の検討を重ね、手術前の心負荷を推定し手術後の経過と比較する臨床研究をおこなっています。また、フォンタン手術後の再手術など手術術式が何通りも考えられるような治療に際してはコンピュータ血流シミュレーションによる仮想手術などの研究を行い、個々の患者さんにとってのベストな手術術式を検討しています。また、先天心特有の不整脈に対してはカテーテルでの電位のマッピングに基づき、アブレーション治療を適切に行うための研究をしています。まだ統計上のエビデンスが不十分で先進諸国がようやく着手し始めた成人先天性心疾患の診療という課題を世界トップレベルの診療技術と世界トップレベルの研究技法を組み合わせ、地域の患者さんを救う医療を提供し、医学の世界に発信することは本学の重要な使命と考えております。


4D flow MRIを用いた血行動態評価

仮想手術シミュレーションを用いた手術計画

成人先天性心疾患の不整脈のマッピングに基づいた術中アブレーション

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